慢性偽性腸閉塞(CIPO)- 診断基準

疾患概念

慢性偽性腸閉塞症(Chronic Intestinal Pseudo-Obstruction:以下CIPO)は、器質的疾患が存在しないのにもかかわらず長年にわたり腸閉塞症状を来す難治性疾患であり、時に致命的となりうるなど、非常に重篤な病気です。しかし、疾患認知度の低さや疾患概念が未だ整理されていないことなどから確定診断までに平均7年以上かかるとも言われ、その間適切な治療が行われずに長期間経過観察されている患者様も多いと考えられています。また、我が国でも年間発症数は1240人程度と試算されており1)、稀少な疾患のためにその病態解明や治療法の確立がほとんどなされていないのが現状です。この悲惨な現状を打開すべく、我々は初めて正式な診断基準を作成し、さらにこの診断基準の感度は86.3%と臨床上非常に有用なものであることを報告しました2)

  1. Iida H, Nakajima A, et al. Epidemiology and Clinical Experience of Chronic Intestinal Pseudo-Obstruction in Japan: A Nationwide Epidemiologic Survey. J Epidemiol 2013;23:288-294.
  2. Ohkubo H, Nakajima A, et al. An epidemiologic survey of chronic intestinal pseudo-obstruction and evaluation of the newly proposed diagnostic criteria. Digestion 2012; 86:12-9.
平成23年度厚労省研究班によるCIPO診断基準(研究代表者:中島淳)
平成23年度厚労省研究班によるCIPO診断基準(研究代表者:中島淳)

<理学所見>

  1. 6か月以上前から腸閉塞症状を認める。
  2. そのうち12週は腹部膨満を伴う。

<画像所見>

  1. 腹部単純X線検査,超音波検査,CTで腸管拡張または鏡面像を認める。
  2. 消化管X線造影検査,内視鏡検査,CTで器質的狭窄、あるいは閉塞が除外される。

上記1~4すべてを満たすものをCIPOと診断する。

この診断基準の感度は86.3%と臨床上非常に有用なものであり、CTや単純レントゲン、消化管造影など、どんな施設でも簡単に診断可能であることが特長です。

またシネMRI(→患者さん向けページの「シネMRIとは?」にリンク)による小腸の動画評価により一段と正確な診断が可能となっています。

その後改訂が重ねられ、2014年に小児領域とすり合わせた最新の診断基準が提唱されました。

平成26年度厚労省「慢性特発性偽性腸閉塞症」調査研究班の診断基準(改訂版)

以下の7項目を全て満たすもの

  1. 腹部膨満,嘔気・嘔吐,腹痛等の入院を要するような重篤な腸閉塞症状を長期に持続的または反復的に認める
  2. 新生児期発症では2か月以上,乳児期以降の発症では6か月以上の病悩期間を有する
  3. 画像診断では消化管の拡張と鏡面像を呈する 註1)
  4. 消化管を閉塞する器質的な病変を認めない
  5. 腸管全層生検のHE染色で神経叢に形態異常を認めない
  6. Megacystis microcolon intestinal hypoperistalsis syndrome(MMIHS) とSegmental Dilatation of intestineを除外する
  7. 続発性Chronic Intestinal Pseudo-Obstruction(CIPO)を除外する 註2)

註1)新生児期には,立位での腹部単純レントゲン写真による鏡面像は,必ずしも必要としない。

註2)除外すべき続発性CIPOを別表1に示す。

別表-1  続発性CIPO

1)消化管平滑筋関連疾患

  • 全身性硬化症
  • 皮膚筋炎
  • 多発筋炎
  • 全身性エリテマトーシス
  • MCTD (mixed connective tissue disease)
  • Ehlers-Danlos 症候群
  • 筋ジストロフィー
  • アミロイド―シス
  • 小腸主体のLymphoid infiltration
  • Brown bowel症候群 (Ceroidosis)
  • ミトコンドリア脳筋症

2)消化管神経関連疾患

  • 家族性自律神経障害
  • 原発性自律神経障害
  • 糖尿病性神経症
  • 筋緊張性ジストロフィー
  • EBウイルス,Herpes Zosterウイルス,Rotaウイルスなどの感染後偽性腸閉塞

3)内分泌性疾患

  • 甲状腺機能低下症
  • 副甲状腺機能低下症
  • 褐色細胞腫

4)代謝性疾患

  • 尿毒症
  • ポルフィリン症
  • 重篤な電解質異常(K+,Ca2+,Mg2+)

5)その他

  • セリアック病
  • 川崎病
  • 好酸球性腸炎
  • 傍腫瘍症候群 (Paraneoplastic pseudo-obstruction)
  • 腸間膜静脈血栓症
  • 放射線治療による副反応
  • 血管浮腫
  • 腸結核
  • クローン病
  • Chagas病
  • 外傷,消化管術後,腹腔内炎症等に起因する麻痺性イレウス
  • Ogilvie症候群

6)薬剤性

  • 抗うつ薬
  • 抗不安薬
  • アントラキノン系下剤
  • フェノチアジン系
  • Vinca alkaloid
  • 抗コリン薬
  • オピオイド
  • Caチャンネル拮抗薬
  • べラパミル